2024.11.5
「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」が「第50回衆議院選挙の結果を受けて」という声明を発出している。この小論では、市民連合の声明を紹介しながら、私の感想を述べてみたい。
声明の概要
裏金政治をめぐって自民党に鉄槌が下った。
「偽装公認」問題、裏金問題自体を明らかにし、野党躍進の契機をつくりだしたのは『しんぶん赤旗』であった。
いかなる強大な権力も、腐敗の事実が明らかとなり、国民の信頼を失えば、一夜のうちにその基盤が瓦解するという、民主政治の真実が再確認された。
しかし、裏金問題は、まったく解決しておらず、引き続き国会内外での追及が続けられなければならない。裏金問題の解決は最低限のスタートラインにすぎない。
市民連合は、立憲野党(立憲・共産・社民・沖縄の風)との「政策合意」において、憲法9条や専守防衛を逸脱する集団的自衛権の行使、そして敵基地攻撃能力を許容することはできないという点を再確認した。
市民と野党との共闘の取り組みを行い、結果的に、改憲政党(自民・公明・維新)による3分の2の議席獲得を阻止することにも寄与することができた。
今後不確実性を高める国会内の政治過程においても、立憲各野党がその当初の方向性を見失わずに進むかどうか、それを見守り、独自の取り組みを行っていきたい。
いかなる政党といえども、立憲政治の大きな原則を踏み外すようなことを、私たちはけっして許容しない。「政権交代は最大の政治改革」であり、その訴えは総選挙で大きく有権者に届いた。しかし、その政権交代への過程で実現される具体的な政治の「中身」こそが、さらに重要な争点であることも確認しておきたい。
戦後3番目に低い投票率だった。この国では、有権者の政治そのものへの無関心、あるいは「絶望」が顕著である。今回のような一部野党の躍進も、冷静に見れば、その多くが与党側の失策とそれに対する与党支持層の離反に起因するものにすぎない。政治への期待を失った国民が希望を見出しうる政治の姿を実現してほしい。
市民連合は、戦争へと向かう国のゆくえを正すべく、各地域でたゆまぬ活動を展開し、市民の立場から政治に参加し、これを創り、またこれを監視する。来年の参議院選挙に向けても、立憲主義と平和主義にもとづくあらゆる政党や組織、政治家と連携し、「市民と野党との共闘」を引き続き追求したいと願う。
裏金問題による自民党への鉄槌
声明は、裏金問題によって自民党に「鉄槌が下った」としている。腐敗した権力が瓦解したというのである。「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対に腐敗する。」という箴言を思い出す。自民党は公示前の議席を56減らし、単独過半数を確保できなかったのだから、そう言われるのであろう。その原因は『赤旗』だという。私もそのとおりと思う。鉄槌を下された自民党の関係者が「恨み節」を語るだけではなく、共産党もそのことを自負しているからである。
不思議なことに、その「立役者」である共産党は議席を減らしている。比例代表では、前回総選挙の投票数約416万票から約336万票と80万票減らし、2議席減少している。その原因は共産党員の高齢化による主体的力量の不足であろう。共産党員は自然成長的には増えない。わざわざ困難な道に入ろうとする人は少ないからである。だから、よほど主体的に働きかけなければ自然減に追いつかないことになる。おまけに党内外に足を引っ張る勢力は後を絶たない。反共は飯のタネになるからである。加えて、現実的力はないとして、投票の対象から外す人もいる。
ところで、立憲民主党の比例での得票数は前回1149万票、今回1156万票である。ほとんど変わりがないにもかかわらず50議席増やしている。これは、小選挙区制のなせる業である。自民党の議席減がこの程度に止まっているのも同様の理由である。
立憲民主党の大躍進は事実である。全国的には、立憲民主党と共産党の選挙協力は行われていないので「共産党と共闘しなくても勝てる」あるいは「共闘しない方が勝てる」という声が聞こえてくる。けれどもそれは大きな間違いであろう。私は、立憲民主党は『赤旗』に感謝しなければならないと思っている(10月30日の党首会談時に感謝が表明されたようである)。そして、立憲政党としての役割を果たして欲しいと期待している。
裏金問題は解決していない
声明は、裏金問題は全く解決しておらず、引き続き追及が必要だとしている。私もそう思う。政治資金規正法は「議会制民主政治における政党や政治団体の重要性にかんがみ、政治資金の収支の公開などの措置を講ずることにより、政治活動の公明と公正を確保し、民主政治の健全な発達に寄与する」ために制定されている。
裏金議員は「政治資金の収支」をごまかしていたのである。それは、「政治活動の公明と公正」を害し「民主政治」の根幹を揺るがす組織犯罪である。それを「形式犯」などとして過小評価することは腐敗の極みであり、そのような政治的風土の一掃が求められている。
けれども、政治資金規正法違反がなくなればそれで良いということではない。それは「最低限度のスタートライン」でしかない。そもそも、企業・団体献金を禁止しなければならないのである。それは、資金力のある企業・団体の献金によって「政治活動の公明と公正」が害されるというだけではなく、基本的人権と深く結びついているからである。
1996年、最高裁は「南九州税理士会事件」において「政党に寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄」であるとして「公的な性格を有する税理士会が、このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできない。」としている。この価値と論理は「公的な性格」を備えない企業や団体会社にも適用されるべきであろう。自然人と法人との関係ということでは同様だからである。1970年の「八幡製鉄事件」における「会社は自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有する」として、「企業の無限定な政治献金の自由」を肯定していた最高裁判決はもはや変更されたと理解しておきたい。
改憲政党の議席
声明は「結果的に、改憲政党(自民・公明・維新)による3分の2の議席獲得を阻止することにも寄与することができた。」としている。確かに、この三党の議席数は253であり465議席の54%である。仮に、28議席を持つ国民民主党が改憲に回っても3分の2にはならないし、立憲民主党、共産党、社民党の議席数は157(34%・3分の1以上)あるので、れいわの態度にかかわらず発議はできないことになる。そういう意味では当面の改憲の危機は回避されたのである。大きな成果であり、「市民連合」の寄与に感謝したい。
けれども、私は、これまでの自民党の改憲策動は「戦前回帰」の思惑だけではなく、「核とドルに依存する」という対米従属路線からの圧力であったことを忘れないでおきたい。今回の総選挙で、立憲民主党が共産党との「共闘」を拒否したのは「安保法制」に対する姿勢の違いであった。立憲民主党は「安保法制の違憲部分を廃止する」として安保法制そのものの廃止を政策目標にしなかったのである。加えて、立憲民主党は「抑止力を維持しつつ」、「健全な日米関係を軸」にするとしていることにも注目しておきたい。日米同盟を抑止力とすることでは自公政権と変わらないからである。日米同盟を両国関係の基礎をなす公共財と考える人からすれば、自衛隊の国軍化は確保したい橋頭堡である。立憲民主党がその圧力によって改憲派に転向する可能性を念頭に置いておかなければならない。
私は、声明の「いかなる政党といえども、立憲政治の大きな原則を踏み外すようなことを、私たちはけっして許容しない。」というフレーズは、立憲民主党に対する牽制と受け止めている。
投票率の低さ
声明は、戦後3番目に低い投票率を指摘し、有権者の政治への無関心や「絶望」が顕著であるとしている。確かに、53%程度の投票率、とりわけ若年層の投票率の低さは何とも情けない。投票率の低さは主権者意識の低さや民主主義についての認識の不十分さに原因がある。主権者意識と民主主義観の涵養が求められている。
けれども、有権者が現状でいいと思っていないことは、今回の選挙結果が物語っている。それは「与党側の失策」と「与党支持層の離反」に起因するものかもしれないけれど「国民の信頼を失えばその基盤が瓦解するという民主政治の真実」が再確認されていることも忘れてはならない。まだ「希望を見出しうる政治の姿」は見えていないけれど、日本の民主主義は機能しているのである。
若年層は「政治への期待」を失っているのかもしれない。何とかしなければ、この国の未来は危うい。けれども、私の周りには現状への異議申し立てをするだけではなく、未来社会を自覚的に創造しようと主体的に行動する青年たちは決して少なくない。だから、私は絶望などしない。
ただし、青年たちには、未来を創るのは自分たちなのだということはしっかりと自覚して欲しいと思っている。他方、私は「百歳は通過点」の気概で主権者であり続けるつもりでもいる。「戦争へと向かう国」で、発展途上にある若者たちだけに頼ることなどできないし、それなりの人生を送ってきた年寄りが奮闘することは「最後のご奉公」と思うからである。
私も、「今後しばらく政治過程は不確実性を高める」と思っている。だから、「立憲各野党がその方向性を見失わずにいるかどうかを見守り、多くの市民団体と連携しつつ、独自の取り組みを行っていきたい。」としている「市民連合」に期待し、連帯していくことにする。(2024年11月1日記)
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