2024.11.28
はじめに
先日(11月26日)、アメリカのロータリークラブのメンバーとオンラインで話をする機会があった。テーマは「なぜ、日本政府は核兵器禁止条約に背を向けるのか」だ。きっかけは、清泉女子大学の松井ケティさんからの、このテーマでロータリーの仲間に話をしてくれないかという依頼だった。彼女とは、1999年にオランダ・ハーグで開催された「世界市民平和会議」(Hague・Appeal・for・Peace、HAP)で共同したことをきっかけとして友人なのだ。友だちの頼みだし、こういうことに興味を持っているアメリカ人がいるとは思っていなかったので、後先を考えないで引き受けた。事前にケティさんに私の見解を渡して、彼女がそれを翻訳して、メンバーと共有したうえでの対話だった。
私の見解
私の見解の概要は次のようなものだった(被団協のことも紹介したけれど割愛する)。
日本政府はTPNWを敵視していますが、日本の市民社会は、速やかな署名と批准を求めています。とりわけ、被爆者の願いは切実です。1945年8月、広島、長崎への原爆投下によって「容認しがたい苦痛と被害」を被った被爆者は高齢化しているからです。
なぜ、日本政府はそのような姿勢をとるかですが、TPNWは核兵器を全面的に禁止しているからです。日本政府は、アメリカの核兵器を自国の安全保障の「守護神」としているので、そのカードを取り上げてしまうTPNWは国家の安全を危うくするというのです。国家の安全なくして国民の命と財産を守ることは出来ない。国家の安全を危うくするTPNWは、国民の生命と財産を危うくするので絶対に容認できないという論理です。「笑えない喜劇」あるいは「泣けない悲劇」のようですが、それ現実です。
けれども、この姿勢は日本政府だけのものではありません。TPNWの発効が現実化しようとした2020年10月、アメリカは、各国に「核兵器禁止条約に関するアメリカの懸念」と題する「書簡」を送りました。批准国には「この条約は、効果的な検証の必要性や悪化する安全保障環境に対処していない」ので「批准・加入書を撤回すべき」だとしていました。未批准国には、TPNWは「危険なまでに非生産的だ」、「国際社会の分裂に拍車をかける」などとしてTPNWへの賛同を阻止しようとしたのです。アメリカも核兵器は自国の安全を確保するための抑止力だとしているので、それを否定するTPNWは容認できないのです。
このように、核兵器によって自国の安全を確保しようとする国家は「絶滅だけを目的とした狂気の兵器」である核兵器の保有を続け、TPNWを敵視しているのです。
メンバーからの質問
メンバーからはいくつかの質問が寄せられた。
①日本は核開発をしなかったのか。
②今、日本に核兵器はないのか。
③地方自治体はどのような姿勢をとっているのか。
④日本のロータリークラブはどのような姿勢なのか。
⑤ノーベル平和賞の授賞式が行われる時、日本は何時なのか、などと言うものだった。最後の質問は授賞式をリアルタイムで視られるのかという心配だったようだ。
私のそれぞれの問いに対する答えは次のとおりだ。
①戦前、日本でも核開発を行っていたが、敗戦によって途絶えた。現在は、公式には行われてはいないが、陰でのことは判らない。
②かつて、沖縄の米軍基地などには配備されていたが、現在は配備されていない。持ち込まれているかどうかは、アメリカが「肯定も否定もしない」という態度なので分からない。
③地方自治体には「非核都市宣言」をしているところや、TPNWへの参加を求める決議をしているところもある。また、世論調査では、TPNW参加賛成が多数だ。
④日本のロータリークラブが、核兵器廃絶のためにどのような活動をしているかは承知していない。
⑤オスロと日本の時差はあると思うけれど、テレビは大きく取りあげるだろうし、国民の関心は高い。とにかくビッグニュースなのだ。
メンバーからの意見
メンバーからは日本のロータリーと繋がりたいという意見もあったけれど、私にその伝手はないので、別ルートでやって欲しいと応えた。ワシントン州から参加していたメンバーは、ニューメキシコ州のメンバーとは交流しているし、4月にはシアトルで核廃絶や先住民の核被害についてのイベントをする計画だと教えてくれた。ニューメキシコ州にはロスアラモスやトリニティ実験場がある。ワシントン州には長崎に投下された原爆の材料プルトニウムを製造していたハンフォード・サイトがあるし、核被害者による訴訟も提起されている。「なるほど」と納得できる話だった。シアトルでのイベントに参加してもらえたらうれしいと言われたけれど、とりあえず、デュポール大学に宮本ゆきさんという核問題の研究者がいることと、日本でもそのイベントは紹介するので詳細が分かり次第教えて欲しいと伝えた。アメリカで核兵器廃絶や被爆者支援のために活動している人たちとの交流は大切にしなければならない。
感想
参加メンバーは、ケティさんと私以外に5名だった。うち女性は4名で唯一の男性はインドの人だった。ケティさんの集まりには、ウォード・ウィルソンという「核をめぐる5つの神話」(黒澤満監訳、法律文化社、2016年)という本を書いている研究者もいるけれど、この日の参加はなかった。ちなみに、この本は有意義で私も引用させてもらっている。共通の言語で語り合えればうれしいけれど、私には無理だ。ケティさんの通訳に依存するしかない。けれども、「あなたの意見は解りやすかったし、理解できた」という人もいたし、ケティさんによれば「皆さん喜んでおられました」とのことなので、引き受けてよかったと思っている。貴重で楽しい時間だった。(2024年11月28日記)
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