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「核兵器廃絶」と憲法9条



2025.10.20

「身を切る改革」の正体

はじめに
 自民党と日本維新の会(以下、維新)の癒着が進行している。このままいくと、高市早苗氏が総理大臣になりそうである。私は、高市氏は「歴史に学ぶ」という最も基本的な営みを拒否する人なので総理大臣に相応しくないと思っている。けれども、維新の諸君はそうではなく、条件が整えば共同してもいいとしているのである。その条件としていくつかのことを挙げているけれど、もっとも大事なことは「国会議員定数の削減」だという。そして、自民党もその条件を受け入れたと報道されている。
 その定数削減が衆議院なのか参議院なのか、何人にするのか、比例部分なのか小選挙区部分なのかなどについては未定であるが、とにかく減らすことは合意されたようである。10月17日時点では、削減数は50人程度とされ、比例部分のようである。そして、その削減の理由は「身を切る改革」だとされている。要するに、国会議員のために使われる国庫金を減らすために議員を減らすというのである。
 
国会議員を減らすことの問題点
 これは大問題である。国会は唯一の立法機関であり、国権の最高機関である(憲法41条)。国会は「全国民を代表する選挙された議員で組織する」とされている(憲法43条1項)。国会議員は民意を国会に反映させる任務を負っているのである。その定数は法律で定められるけれど(憲法43条2項)、その数が少なければ少ないほど国民の声が届きにくくなることは自明である。自民党と維新は現在の数を減らそうというのである。
 しかも、比例代表部分を減らそうとしているのである。そうなれば、少数派の意見が反映しにくくなる。これは選挙制度のイロハの知識である。現行の選挙制度は「小選挙区比例並立制」とされている。その比例部分を削減することは「少数派を切り捨てる」という小選挙区制の弊害が一層顕著になる。少数派の意見を尊重することは、社会の活性化のために不可欠なシステムである。「社会が荒廃した精神的軽薄さと退廃から自分を防御する唯一の道は、少数者の権利の承認である。」(ゲオルク・イェリネック『少数者の権利』)という指摘を思い出しておきたい。
 自民党と維新は、国民主権国家における代議制民主主義の原理を理解していないのである。彼らの無知と無責任さを確認しておく。
 
国会議員の定数を50減らした場合の試算
 現在、国家議員一人当たりに費やされている国庫金は年間約7531万円である(2024年の予算ベース)。その内訳は、歳費約2180万円、調査研究広報滞在費約1200万円、立法事務費約780万円、公設秘書給与三人分約3180万円、JRパス・航空機利用経費約190万円である(生成AIによる。合計は1万円合わないがそれは四捨五入の影響)。この数字を基にして、国会議員の数を50人減らすと、国庫金の負担は37億6550万円減ることになる。
 彼らは、その金額のために代議制民主主義の機能を減殺しようとしているのである。それはまた、国民の参政権の実質的価値を減殺することにもなる。民意を立法府に届きにくくするとはそういう意味なのである。彼らにとって、民主主義も参政権もその程度のものなのであろう。これが、彼らがいう「身を切る改革」の正体である。

政党助成金の温存
 さらに看過できないことは、彼らは政党助成金を温存していることである。そもそも、政党助成金は税金が原資なので、自分の納めた税金が全く支持していない政党に交付されることもありうる。共産党は「政党助成金は憲法違反」としてその受領を拒否しているので共産党支持者の場合は間違いなくそうなる。
 国民が納めた税金のうち250円が自働的に各政党に交付されている。国民の「思想及び良心の自由」(憲法19条)の一場面である「政党への寄付の自由」は完全に無視されているのである。徴収を拒否できない税金が、個人の意思に関係なく、自民党や維新に交付されているのだ。支持しない政党への強制カンパといえよう。彼らはそのことには全く触れない。(おまけに、企業・団体献金の禁止は棚上げされている。)
 ところで、今年度の政党助成金の交付総額は315億3652万円である。うち自民党へは136億3952万2千円、維新へは32億922万7千円である。彼らが本気で「身を切る改革」をやるというのなら政党助成金を廃止すればいいだけの話で、国会議員の定数を減らす必要などは全くない。その方が国会議員を50名減らすよりも桁違いに効果的なのである。「身を切る改革としての定数削減」などというのは限りなくフェイクである。

まとめ
 このように、自民党と維新が進めている国会議員の定数を減らすという合意は「改革もどき」というだけではなく、代議制民主主義を軽視する「有害な代物」なのである。彼らは何が大事なことなのかを全く判っていない。国民主権国家における定数削減問題がもっている「ことの重大性」を完全に無視し、「数合わせ」だけに関心を寄せているのである。無知と強欲がのさばり、国民主権や基本的人権は忘却されている。
 自民党と維新は、37億円の国庫金を巡っての合意で、この国の政治を決めようとしているのである。なんとも情けないと思う。何とかしなければならない。まずは、彼らのいう「身を切る改革」の正体を広げることにしよう。(2025年10月18日記)




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