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「核兵器廃絶」と憲法9条



2025.5.8

『被爆80年にあたっての提言』―自著を語るー

はじめに
 5月3日付で、新著『被爆80年にあたっての提言』(日本評論社)を発刊した。昨年12月10日に『「原爆裁判」を現代に活かす』から5か月と経っていない。にもかかわらず、新著を急いだ理由は、今年が被爆から80年ということと日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)がノーベル平和賞を受賞したことにある。
 私は、2019年以降『「核の時代」と憲法9条』(日本評論社、2019年)、『「核兵器も戦争もない世界」を創る提案』(学習の友社、2021年)、『「核の時代」と戦争を終わらせるために』(学習の友社、2022年1月)、『迫りくる核戦争の危機と私たち』(あけび書房、2022年11月)、『「核兵器廃絶」と憲法9条』(日本評論社、2023年)を出してきた。加えて、昨年、NHKの朝ドラ「虎に翼」で「原爆裁判」が取り上げられたおかげで『「原爆裁判」を現代に活かす』(日本評論社)を出すこともできた。いずれも、テーマは核兵器廃絶と憲法9条の擁護と世界化にかかわっている。これは「核兵器も戦争もない世界」を創りたいという想いの発露だ。その想いを更に掻き立ててくれたのは、日本被団協の田中熙巳代表委員のノーベル平和賞受賞記念スピーチだった。

田中さんのスピーチ
 田中さんのスピーチは、自らの被爆体験と被団協のたたかいを簡潔に紹介するものだった。「被爆の実相」を体験するだけではなく、それをもたらした「悪魔の兵器」を廃絶するための闘いを主体的に継続した人だけが持っている熱量を感じさせるものだった。私には「原爆裁判」の訴状が持っている熱量と匹敵するように思われた。すごい人が実在していることを実感する機会でもあった。そのスピーチの結びは次のようなものだった。
「人類が核兵器で自滅することのないように!!」、「核兵器も戦争もない世界の人間社会を求めて共に頑張りましょう!!」
 田中さんは「人類の自滅」を避けるために「核兵器も戦争もない世界」を創るための共同を世界の人々に呼びかけたのだ。
 私はこの田中さんのスピーチを聞きながら、この呼びかけに応えなければならないという想いを新たにしたのである。

田中さんと私
 田中さんと私の交流は四半世紀になる。1999年、オランダのハーグで開催された「世界市民平和会議」(Hague・Appeal・for・Peace、HAP)で共同したことがきっかけだった。HAPは、21世紀に戦争を根絶することをめざして開催された市民社会の会議だ。会議では「10の基本原則」が採択されている。その中に「各国議会は、日本国憲法第9条のような、政府が戦争をすることを禁止する決議を採択すべきである。」や「核兵器廃絶条約の締結をめざす交渉が直ちに開始されるべきである。」という原則も含まれていた。
 それから25年、日本国憲法は執拗な攻撃に曝されているが未だ輝きを失っていない。そして、「核兵器禁止条約」は発効している。核兵器も戦争も廃絶しようとする運動は間違いなく前進しているのだ。
 けれども、核兵器に依存しで自国の安全を確保しようとする勢力が、いまだ、政治権力を握っている。この状況を打破しない限り、バラック・オバマが言ったように「空から死が落ちてくる」ことになるかもしれないのだ。だから、田中さんのスピーチは、ノーベル委員会のヨルゲン・ワトネ・フリドネス委員長が言うように「核兵器は二度と使われてはならない兵器だということ思い出させ」るものであり「人類の総意」とされなければならないのである。

この本の構成
 序章は「私たちは大きな分岐点に立っている」である。政府も「世界は分岐点にある」としているので、そのことについて検討している。第1章は、「『核兵器も戦争もない世界』を創るために」である。田中熙巳さんのノーベル平和賞受賞記念講演を題材に「核兵器も戦争もない世界」を希求している。あわせて、原発や自然災害と核兵器の関係についても触れている。第2章は、「憲法の平和主義で考える」である。憲法の平和主義との関係の論稿である。「戦争前夜」と言われている情勢をどう見るか。「安保三文書」のひとつ「国家安全保障戦略」の紹介や憲法の非軍事平和主義の本来の姿などを再確認している。第3章は、「改憲、核抑止論に未来はない―政府や自民党との対抗-」である。政府で仕事をしている人の核兵器観の批判的紹介や自民党に対する批判もしている。終章は、「誰と連帯するのか」である。核兵器廃絶は人類的課題ではあるけれど政治的課題でもあるのだ。

田中さんの推薦
 本書は、前著『「原爆裁判を現代に活かす』に続いて田中熙巳さんから次のような推薦文を寄せてもらっている。
 私はノーベル平和賞授賞式で「人類が核兵器で自滅することのないように!!核兵器も戦争もない世界の人間社会を求めて共に頑張りましょう!!」と世界に呼びかけました。被爆80年にこの呼びかけにいち早く応えてくれたのが、一貫して核兵器廃絶と憲法9条のために取り組んでいる著者です。本書に込められた思いと信念が多くの市民の共感を呼ぶことを強く望んでいます。
 本書が、田中さんの推薦にどこまでこたえられるか心もとないけれど、「核兵器も戦争もない世界」は必ず実現する。それは、核兵器は人間の作ったものであり、戦争は人間の営みだからである。ぜひ、ご一読を!!(2025年5月6日記)




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