2025.9.8
「今夏屈指の労作」との評価
8月21日付『赤旗』の「波動」欄で、メディア文化評論家の碓井弘義さんが、8月8日に放映されたBSスペシャル「原爆裁判〜被爆者と弁護士たちの闘い〜」について、「注目すべき一本だった」、「被爆体験と司法闘争の歴史を丁寧に掘り下げていた」、「被爆80年の夏、改めて原爆裁判の意義と精神を再認識すべきであることを、この番組は静かに主張していた。」と書いていた。すごくうれしいと思っていたら、8月28日付『赤旗』の「波動」欄は、この番組を「2025年『8月のジャーナリズム』屈指の労作」と評価していた。これはまた凄いことになったと欣喜雀躍の気分に襲われている。「放送を語る会」の小滝一志さんの記事だ。少し長くなるけれどその記事の要旨を紹介する。
記事の要旨 (()内は大久保の注)
番組は裁判を起こした岡本尚一弁護士の訴状を手掛かりに原告五人の遺族を探し、その一人 川島登智子の遺族 時田百合子さん親子が母親の原爆裁判にかけた思いをたどる旅を軸に展開される。
番組の冒頭、岡本が原爆裁判を開始するまでの動機と経緯を孫・村田佳子さんが保管している資料から掘り起こす。「トルーマンをアメリカの裁判所の法廷に訴えようとしていた」という岡本の原爆投下への強い怒りが動機だった。
原告川島の妹 詔子さんが健在だった。時田さん親子が訪ね、登智子がなぜ家族にも原告だったことを頑なに語らなかったかが次第に明らかにされる。
判決は「原爆投下は、当時の国際法から見て違法だった」と断ずる画期的なものだった。「本訴訟を見るにつけ政治の貧困を嘆かずにはいられない」と書き込んだ古関裁判長にインタビューした平岡敬さんなどの証言により、裁判長の心情や判決文作成の苦労が窺える。
番組の後半は判決の国際的評価とその後の世界への影響の検証だ。判決を英訳した米国の国際法学者(リチャード・フォーク)は「僕に力があれば、岡本にノーベル平和賞を授与した」と高く評価した。
岡本弁護士を引き継いだ松井康浩弁護士は、94年に日本反核法律家協会を結成、核兵器の違法性を認めさせる「世界法廷運動」のきっかけを作った。
2017年に核兵器禁止条約は採択された。大久保賢一日本反核法律家協会5代目会長(記事は4代目としているけれど正確には5代目)の「原爆裁判が蒔いた種がしっかり実を結んでいる」とのコメントが強く印象に残る。
唯一の被爆国日本政府が核兵器禁止条約に背を向けている今、番組は60年前の原爆裁判にスポットを当て、その今日的意義を明らかにした。2025年「8月のジャーナリズム」屈指の労作と思う。
私の感想
この番組の企画段階からかかわっていた私としては、このような評価をしてもらえることは本当にうれしい。この番組のチーフプロデューサーの塩田純さんやディレクターの金本麻理子さんは、昨年から、「原爆裁判」にかかわった原告や弁護士たちのその後を追跡する企画を考えていた。企画が通るかどうかは本当に狭き門なのだそうだ。金本さんから、その企画が通ったという喜びの連絡が入ったのは、今年の2月だった。
その後、私は、インタビューを受けたり、講演会での取材に応じたり、番組の内容にアドバイスをするなどのかかわりを持ってきた。番組が完成したのは8月に入ってからで、放送は8月8日だった。私も、ドキドキしながら見ていたけれど、川島登智子さんの娘さんの時田百合子(72歳)さんとお孫さんの時田昌幸(35歳)さんの行動を縦軸としながら、原告の遺族、岡本弁護士のお孫さん、弁護士や裁判官や学者やジャーナリストたちを絡ませながら「原爆裁判」とは何かを浮かび上がられる番組に仕上げられていた。特にすごいと思ったのは、リチャード・フォークだけではなく、核抑止論者の米国出身のICJ裁判官や核兵器の使用や威嚇を絶対的違法としたウィラマントリーICJ判事の教え子にまでインタビューしていたことだ。番組を企画し製作した方たちの力量に改めて感服したものだった。
まとめ
この番組を見た感想を何人かから聞いている。共通するのは、川島さんの遺族である時田さん親子が、登智子さんが原告になっていることを知らなかっただけではなく、被爆者のたたかいなどとは縁がなかったけれど、この番組の中で、すこしずつ変わっていき、最後は、埼玉の被爆者の慰霊祭で挨拶するようになっていることに対する共感だった。まさに、この番組はヒューマンドキュメンタリーになっていたのだ。その親子の取材を続けていた金本さんも二人が変わっていく様子がよくわかったと述懐していた。番組作りは成功していたのだ。
ところで、金本さんは、放送されなかったけれど、多くの遺族と接して多くの貴重な証言を得ているという。けれども、取材した材料全部を60分の番組におさめることなどできないので、割愛しなければならない事実が多く残ってしまうそうだ。何とももったいないことだと思う。私は、「原爆裁判全資料集」も出版されていることでもあるので、これらの証言を埋もれさせない方法を考えたいと思っている。裁判資料と当事者たちのその後を将来に活かしたいのだ。そうすれば、さらに「原爆裁判」を活用できるように思うからである。
この番組の英語版もできている。この番組は「核兵器も戦争もない世界」を創るための資料の一つとして役に立つことは間違いない。原爆という究極の暴力に、法という理性をもって立ち向かった人間たちがいたことを知ることになるからである。だから、世界中の人に視てもらいたいと思う。そして、NHKには地上波での深夜・早朝ではない時間帯での再放送をお願いしたい。せっかくの番組を活用しないことはもったいないからである。(2025年9月2日記)
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