2025.10.15
参政党の塩入清香(しおいり さやか)氏が、7月3日に配信された日本テレビの番組で「あの北朝鮮ですらも核兵器を保有すると、国際社会の中でトランプ大統領と話ができるぐらいまでにはいく」、「核武装が最も安上がりで、最も安全を強化する策の一つ」と述べたことは記憶に新しい。参政党の国会議員のうち6人は「日本は核兵器を保有すべきだ」としているから(『毎日新聞』8月1日付)、参政党の諸君は核兵器を廃絶するなどとは全く考えておらず、日本も核武装すべきだとしているようである。私はこのような考えを心の底から忌み嫌っている。
その理由は、そもそも「核と人類は共存できない」と考えているからだ。私は被爆者の証言や「原爆裁判」などから核兵器が「死神であり、世界の破壊者」あることを知っている。だから、核兵器が必要だとか役に立つなどという連中は人間として許せないし「死神のパシリ」とみなしているのである。
それに加えて、日本は核兵器不拡散条約(NPT)の加盟国として、核兵器を保有しないという条約上の義務を負っているからである。憲法は、締結した条約は誠実に遵守するとしているし(98条)、国会議員は憲法を尊重し擁護する義務を負っている(99条)。だから、国会議員は「核兵器保有」を言ってはならない立場にあるのだ。よって、日本が核武装すべきだとする議員はNPTや憲法を無視する「無法者」ということになる。
このことだけでも、参政党の諸君の非人間性と無知は明らかではあるけれど、それに加えて、核武装は決して安上がりではないことも知らないようだ。核兵器がいかに「高くつくか」について『毎日新聞』10月10日付夕刊が興味深い記事を掲載している。「『核兵器が安上がりである』と吹聴する人、安易に信じる人がいる。本当なの? あえて核武装の費用対効果を専門家と検証」するという記事である。
記事は三例を挙げている。1968年と70年に内閣調査室がまとめた「日本の核政策に関する基礎的研究」、山崎正勝東京工業大学名誉教授の見解、鈴木達治郎長崎大学核兵器廃絶研究センター前センター長の見解である。
内閣調査室の報告
この報告は政府の秘密研究の成果である。その結論は「核武装は可能だが持てない」である。技術や組織、政治、外交などの幅広い観点から検討し、わずかな核兵器で抑止力を維持するのは困難、外交的孤立は不可避、国民の支持も得にくいという理由である。コストについては「10年間に年平均2016億円」とされ、現在の価値に換算すると「8千億円から9千億円」だという。報告書は「財政状況から見て極めて難しい」としていた。政府はコスパも検討したうえで、「核武装」を断念し、米国の核の傘と核兵器不拡散条約(NPT)を選択したのである。
山崎正勝氏の見解
山崎氏は「核武装すれば世界で孤立する。孤立したら経済的損失は計り知れない」としている。今になって核を持てば、NPTを脱退することになり、北朝鮮のように国連の経済制裁を科され、食料もエネルギーも自給率の低いわが国では国民生活が成り立たなくなるというのである。「核武装するから米国製の兵器は買いませんなんて言えるのか」とも言う。また、核兵器にすれば数千発分に相当するプルトニウムも保有しているけれど、使用済み燃料から取り出したプルトニウムは核兵器に不向きな同位体の比率が高く「現実には1発も作れないのではないか」としている。核武装は政治的選択としても技術的にも無理という結論である。私は現有のプルトニウムが核兵器に向かないということは知らなかった。
鈴木達治郎氏の見解
「核爆弾を作れたとしても、核武装が安上がりと主張する人は核兵器システムの構築と維持にかかる巨大コストをご存じないのでは」。「抑止力だというなら核弾頭を運搬するミサイル、爆撃機、原子力潜水艦の外、相手の攻撃を検知して反撃するシステムも欠かせない。膨大な投資と時間が必要。核実験も必要だけど、狭い国のどこでやるの? 地震国だから地下でやるのも巨費がかかります」と指摘している。そして、核兵器国の核兵器予算は年約15兆円だったというICANの報告を紹介している。「そもそも、核を持てば安全だなどというのは幻想。米国は9.11の攻撃を受けたし、イギリスもフォークランドで攻められ、イスラエルもハマスの攻撃を受けた。核抑止なんて、結局、相手次第なんだから」という指摘もある。注目したいのは、日米韓の共同研究の結果である。最悪の想定は、台湾有事をめぐる米中の争いで、計24発の核兵器が使用され、短期で260万人が死亡し、放射線の影響で長期的には最大83万人が亡くなる可能性があるとされている。何とも身の毛のよだつようなシミュレーションである。
記事は「唯一の戦争被爆国が核武装すれば国際的信用は失われ、被爆者を中心とした核廃絶の取組も水泡に帰す。その損失は、もはや金銭では代替できまい」、「新政権発足前に一言お伝えしたい。核武装は決して安くありません」と結ばれている。
参政党の諸君がどこまで考えて行動しているかは知らない。多分、体系的な思考などしていないであろう。核兵器という究極の暴力についての認識の浅さからして、彼らの無知と無責任さは度を越していると言えよう。彼らのような勢力が一定の力を持っていることも視野に入れなければならないけれど、彼らの言動の虚妄と危険性を暴いてくれる知性も間違いなく存在しているのである。そのことに確信をもって「核兵器も戦争もない世界」を創るための努力を続けることにしよう。(2025年10月13日記)
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