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「核兵器廃絶」と憲法9条



2025.11.6

高市早苗首相の「立憲主義」の無理解

『毎日新聞』のコラム
 『毎日新聞』の夕刊に「今日も惑いて日が暮れる」というコラムがある。吉井理記氏の筆である。10月29日は「高市さんの憲法観」というテーマだった。憲法学者の小林節氏と高市早苗氏の「立憲主義」についてのやり取りを紹介している興味深いものだった。小林氏は、もともとは憲法9条改正を訴え、自民党や読売新聞の憲法改正の理論的支柱だった人だけれど、今は、「護憲派」として『赤旗日曜版』の拡大に協力している人だ。「変節」という人もいるけれど、ご本人は「今なお学んで、進化し続けているということだ。成長の一過程だ」として意に介していないようだ。私も「護憲派」から「改憲派」に鞍替えするのは「転向」だと思うけれど、この「進化」は大いに歓迎している。
 コラムによると、その小林氏が高市氏を痛烈に批判していたことがあるという。小林氏が「憲法は、国家権力が乱用されて国民の人権を侵害しないよう、あらかじめ縛っておくものだ。近代国家の前提である『立憲主義』という考えだ」だと説明したら、高市氏が「私はその考えをとりません」と言ったというのだ。それは、2006年5月18日の衆議院憲法特別委員会に端を発している。

憲法特別委員会でのやり取り
 2006年5月18日、衆議院憲法特別委員会に小林節氏が参考人として出席している。高市氏は自民党の議員として小林氏にこんな質問している。「おそらく先生は、憲法というのは国家の権力を制限する、国民の権利を守るための制限規範的なとらえ方を主に持ってくるべきだというお考えなのだろうと思います。それは憲法の重要な役割なんだと思うんですが、私自身は、昨今、やはり国民の命を確実に守る、それから領土の保全、独立統治というものを確保するために、国家に新たな役割を担ってもらう授権規範的な要素もいくらかは必要だと思います…。」
 これに対し小林氏は「権力というのは、歴史上、本質的に濫用、堕落する危険がある。それは人間の本質で、これは一向に改まっていません。古今東西」、「だから歯止めをかけておく。濫用されたとき跳ね返す。これ憲法の基本的役割なんですね。これなくしては憲法じゃなくなっちゃうんですね。…制限規範、授権規範なんて、…そこを強調することは非常に目新しいけれども、それは誤用であると申し上げておきます。」と答えている。
 それに対して高市氏は「私自身は誤用であると思っていない」と反応するのである。

高市首相の「立憲主義」理解
 この質疑には「私はその説を取りません」という言葉は出てこない けれども、高市氏の質問は、制限規範とか授権規範とかの用語を使用しながら、憲法の権力に対する制限規範としての役割を減殺しようとしていることは見え見えである。また、小林氏に、その用語の使用について「非常に目新しい」などと(私から見れば)皮肉られているにもかかわらず「誤用ではない」と言い張っているのである。このやり取りを体験している小林氏が、高市氏は立憲主義について「私はその考えをとりません」と言っていると紹介しても曲解ではないであろう。彼女の立憲主義についての無理解は明白だからである。

高市首相の理解の問題点
 小林氏が説明している「立憲主義」はいわば憲法学における「公理」のようなもので、個人が採用するかどうかという問題ではない。彼女の物言いはあえて言えば「私は『1+1=2』という考えはとりません」と言っているようなものなのだ。フェイスブックでは「これは驚きましたね。立憲主義って国家の動かし方は憲法で決めるというものですが、それを取らないということは、憲法にしたがって就いた内閣総理大臣という地位も、私は認めないということですよ」、「うちは労働基準法採用していません、っていう中小企業のシャチョサンみたい」、「この人は憲法を校則ぐらいにしか考えていないのだろうか?だとしたら危険極まりない人だ」、「国会議員にも憲法学や法学概論に関する研修の履修を義務付けるべきかと思いますね」などと盛り上がっている。

まとめ
 今、この国ではこういう人が首相をしているのだ。私は、高市氏が「戦後生まれだから戦争責任などはない」とか「さもしい顔して貰えるものは貰おうとか、弱者のフリをして少しでも得をしよう、そんな国民ばかりになったら日本国は滅びてしまう」という発言をしていることは知っていたけれど、立憲主義を理解していないことは知らなかった。おまけに、彼女は非核三原則の「持ち込ませず」を見直そうと言っているし、トランプ大統領の核実験再開指示に反対していないのである。彼女は「悪魔の兵器」に依存しているのである。そもそも日本国憲法など眼中にない人なのであろう。
 けれども、彼女の支持率は高いのだ。しかも、若年層の支持率が高いのだ。「その国の民度はその国の宰相を見ればわかる」そうだから、この国の民度はこの程度なのかもしれない。けれとも、この国で同時代を生きているのだから、それを冷笑すればいいというわけにもいかないであろう。何とかしなければいけない。(2025年11月4日記)




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