2025.11.21
中国が怒っている
中国政府が高市早苗首相の国会答弁を怒っている。在大阪領事が「勝手に突っ込んできたその汚い首は、一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟が出来ているのか」と投稿したり、中国政府は日本への旅行や留学を控えるよう要請したり、外務省の局長に対してケンモホロロの対応をしている。「高市答弁を撤回しろ」とその怒りは尋常ではない。
他方、日本政府は、高市答弁は「従前の政府の方針と違いはない」として、撤回も謝罪も不要としている。このままでは、日中間の溝が深まるだけでいいことは何もない。むしろ、両国間の軋轢が強まり、予想しがたい事態が発生するかもしれない。そこで、ここでは、その発言を確認し、中国政府の怒りを検証してみることにする。
高市答弁
問題になっているのは、11月7日の衆議院予算委員会での岡田克也議員に対する高市首相の答弁である。その答弁は次のとおりである(11月19日現在、議事録は公表されていないので井上正信論稿の速記録速報版による。衆議院TVで確認はできる)。
先 ほ ど 有 事 と い う 言 葉 が ご ざ い ま し た 。 そ れ は い ろ い ろ な 形 が あ り ま し ょ う 。 例 え ば 、 台 湾 を 完 全 に 中 国 北 京 政 府 の 支 配 下 に 置 く よ う な こ と の た め に ど う い う 手 段 を 使 う か 。 そ れ は 単 な る シーレーン の 封 鎖 で あ る か も し れ な い し 、 武 力 行 使 で あ る か も し れ な い し 、 そ れ か ら 偽 情 報 、 サイバープロパガンダ で あ る か も し れ な い し 、 そ れ は い ろ い ろ な ケース が 考 え ら れ る と 思 い ま す よ 。 だ け れ ど も 、 そ れ が 戦 艦 を 使 っ て 、 そ し て 武 力 の 行 使 も 伴 う も の で あ れ ば 、 こ れ は ど う 考 え て も 存 立 危 機 事 態 に な り 得 る ケース で あ る と 私 は 考 え ま す。
この答弁は「北京政府」が台湾を「完全に支配下に置くようなこと」を想定して、それは「存立危機事態になりうる」としているのである。これまでの政府の公式見解は「いか な る 事 態 が 存 立 危 機 事 態 に 該 当 す る か と い う の は 、 実 際 に そ の 発 生 し た 事 態 の 個 別 具 体 的 な 状 況 に 即 し て 、 全 て の 情 報 を 総 合 し て 判 断 し な け れ ば な ら な い と 考 え て お り ま す」というもので、台湾を念頭に置いているとはしていなかったのである。ところが、高市首相は「台湾」に係る「存立危機事態」がありうると答弁したのである。それは、論理的には、北京政府と台湾との間で事が起きた場合、日本政府は自衛隊を防衛出動させるかもしれないと言明したことになる。自衛隊法は「存立危機事態」における自衛隊の防衛出動を想定しているからである。防衛出動は敵軍との交戦である。だから、この答弁は「北京政府」と敵対し、台湾に味方して自衛隊を出動させ、中国軍と交戦する場合があると公言したことを意味しているのである。
日本の台湾に対する基本的スタンス
ところで、1972年の「日中共同声明」は、日本と中国は国交を正常化し、外交関係を樹立することに合意している。そして、日本は中華人民共和国を中国の唯一の合法政府として承認し、台湾との外交関係を断絶している。台湾については、中国側は「台湾は中華人民共和国の領土の不可分の一部である」と表明し、日本側はこの中国政府の立場を「十分理解し、尊重する」とされている。日本は台湾が中国の一部であるとは正面から認めていないとしても、中国の立場は「十分理解し、尊重する」としているのである。この合意は、両国は「台湾問題は中国の内政問題と理解している」と理解するのが合理的である。これが日中両国間の大前提だったのである。
ところが、高市首相は、北京政府と台湾が争えば台湾のために自衛隊を出すこともありうると答弁をしたのだから、中国からすれば「共同声明」の合意はどこに行ったのかということになるのである。自分たちの立場を「理解し尊重する」としていたのにそれは反故にするのかと怒りに襲われているのである。「自分たちの想いが踏みつけにされた」と怒るのは無理もないであろう。メンツを潰されるのは誰にとっても嫌なものなのだ。私はその怒りを理解する。しかもそれは、単なるメンツの問題ではなく国際合意のあり方にもかかわっているのである。
中国の怒りへの無理解
ところが、その怒りを理解しない言説が巷に溢れている。中国の態度を行きすぎとしたり、どっちもどっち論が幅を利かせているようである。それは、怒りの原因を見ないままに、怒りの表現の仕方を問題にする皮相な言説である。怒り方を問題にする前にその怒りの質と原因を理解することから始めるべきであろう。
そもそも、国際法の基礎は「合意は拘束する」ということにある。その合意を一方的に破られた場合、破られた側としては、外交的抗議・交渉、報復的・制裁的措置などは許容されている。現在、中国がとっている措置はこの理屈に拠っているのである。言葉使いには気を付けた方がいいかもしれないけれどけれど「合意を破ること」はそういう重大な行為だということを肝に据えておかなければならない。日本政府にはその自覚がないようである。
もちろん、このことを理由とする「武力の行使」は国際法違反ということになるけれど、非軍事的な対抗措置を責めることはできない。逆に、日本側の対抗措置はその根拠を欠いているのである。これ以上事態を悪化させない唯一の方法は答弁を撤回し謝罪することである。「中国の怒りはその内おさまるだろう」などという方策は下策中の下策である。それは当面の外交どころか「国家百年の計」を誤ることになるであろう。
日本政府の本音
ところで、政府は、高市答弁は従前の政府答弁を変更するものではないとしている。私は、その答弁には大きな転換があるし、それが中国の怒りの原因だと考えているので、日本政府のこのような姿勢は火に油を注ぐことになるであろうと予測している。
けれども、日本政府は、そもそも「台湾有事」に際して自衛隊を出動できる仕組みを考えてきたのである。そういう意味では、従前の姿勢と高市答弁は何も変わらないのである。むしろ、高市首相は正直に語っただけなのである。
「安保法制」や「安保三文書」は中国の行動を制御するための法制度であり戦略文書である。外交上の配慮をして曖昧にしている部分はあるけれど、日本政府が米国の対中国政策の転換を受けて、米国の走狗となっていることなど、中国が見抜かないわけがないであろう。「安保三文書」を前倒ししようとしている高市首相は、外交的配慮を欠いたまま「走狗としての本性」をさらしてしまったのである。幼稚で浅はかというしかない。けれども、私たちはそれを嘲笑しているわけにはいかない。この国で現実に起きていることだからである。私たちには、新たな犠牲者の発生を止めるための努力が求められているのである。
トランプ大統領は「新たな核実験再開」を指示し、高市首相はそのトランプ大統領に「ノーベル平和賞を」と言い立て「非核三原則」の見直しも視野に入れていることも忘れてはならない。彼女は「死神のパシリ」でもあるのだ。新たな犠牲者には新たな被爆者が含まれるかもしれないのである。史上最悪の危険な政権が高い支持率の中で暴走している現実を見据えての対抗策を構築しなければならない。まずは、高市発言の撤回と謝罪であり、続いては「安保三文書」の廃絶と「安保法制」の廃止である。(2025年11月20日記)
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