2026.3.30
はじめに
私は「9条があるから入った自衛隊」という川柳をよく引用する。例えば、『「核兵器廃絶」と憲法9条』(日本評論社、2023年)では、「『平和を望むなら戦争に備えよ』というのは、伝統的・古典的見解である。一朝一夕に消え去ることはないであろう。『普通の国』はまだそうなっている。他方、『9条があるから入った自衛隊』という川柳も作られている。『9条が一国だけというハンデ』という句もある。非軍事平和規範は間違いなく根付いているのである。」などというようにだ。私は、自衛隊違憲論者であり、いずれ時が来れば解体されると考えているけれど、この川柳は高く評価している。『毎日新聞』の万能川柳欄に掲載されたものだという記憶があるのだけれど、定かではない。それはともかくとして、今、その川柳を思い出したのは、自衛隊員が危険にさらされているからだ。
「専守防衛」の自衛隊員なら、現実に戦闘する機会はないだろうから、「戦死」の心配などはいらなかった。現に、これまで戦死者はいない。そもそも、他国が日本を攻めてくることなど「架空の世界」ではありえたかもしれないけれど「現実の世界」ではありえなかったからである。
ある自衛隊幹部の述懐
例えば、W元陸将、Y元陸将、H元空将補の手記と防衛省勤務体験のある元内閣官房副長官補の柳澤協二氏の解説で構成されている『自衛官の使命と苦悩』(かもがわ出版、2019年)という本の中で、W氏は「私が防衛大学を選んだことも、日本の防衛に特段の使命感があったわけではありません。当時の日本の景気が悪化したこともあり、親に迷惑をかけずに大学に行かなければならないと思ったわけです。」、そして「冷戦当時、上陸してくるソ連軍を迎え撃ち、自衛隊主力部隊のための地域を確保し、米軍の来援を待つという『絵空事』を本気で考えていたし、馬鹿のように真剣に訓練をしていた。」と述懐している(拙著「迫り来る核戦争の危機と私たち―「絶滅危惧種」からの脱出のためにー」あけび書房、2022年でも紹介)。
このように、自衛隊の元幹部はソ連が攻めてくるなどということは「絵空事」だったと振り返っているのである。けれども、彼らがその任務に命を懸けていたことはそのとおりなのだ。
自衛隊員の宣誓
自衛隊員は「自衛隊員の服務の宣誓」を行う。これは自衛隊発足当時からの宣誓である。それはこんな内容だ。
私は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法および法令を遵守し、…政治活動に関与せず、強い責任感を持って専心職務の遂行にあたり、ことに臨んで危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえることを誓います。
この宣誓はどういう意味を持っているのだろうか。いうまでもなく自衛隊は実力組織だ。憲法上の「戦力」にあたるかどうかはとりあえずおくとしても、武力の行使を職務とする「戦争」に勝利するための組織である。勝利は殺傷力と破壊力の強弱によって決定される。「危険を顧みず、身をもって責務を完遂」することが求められるのである。敵と交戦するということは、見ず知らずの兵士を相手に、逆らえない命令によって命のやり取りをするということなので「強い責任感を持って専心職務の遂行」が求められているのだ。H氏は、このことを「命令によって、殺傷と破壊を行う防衛任務の全うは、命がけで職務に従事している自衛官の究極の使命です。」と書いている。自衛隊員の仕事は言葉の本来の意味で「命懸け」なのだ。
ある元自衛隊員の言葉
ここで、こんなエピソードを紹介しておく。2021年7月12日の私のフェイスブックへの投稿だ。
先日、108歳と半年で、母の姉が天寿を全うした。弔辞を読むと約束していた私は、弔辞の中で今の政治権力の腐敗と堕落と無知と無能と無責任を指摘した。特に、台湾海峡での軍事的対応は危険だ、核兵器の使用もありうると警告した。もちろん場違いであることは承知の上である。伯母は「青春を戦に果てし義弟三人三十三回忌の遺影に対ふ」とか「墨黒々と『核廃絶』と我書きぬ駅頭に立つ嫁のたすきに」と詠む人だから、返歌のつもりで、反核反戦を弔辞に組み込んだのだ。葬儀が終わった後、ある男性が近づいてきた。彼は私に「先ほどの台湾海峡の話は身につまされました。我々は、命令があればそれに従わなければならない立場です。」と語りかけてきた。元護衛艦に乗っていて、現在は、警察官をしていると自己紹介してくれた。命令に逆らうこともできず、殺傷と破壊のるつぼに投げ込まれる人は間違いなく存在するのだ。政府の行為によって、再び戦争の惨禍を起こしてはならない、と改めて思った葬儀だった。「老い先を短きものとあきらめず新品種の桃苗植ゑて」。これは伯母の79歳の時の歌である。その意気を引き継ぎたいと思う。
まとめ
自衛隊の元幹部はソ連の侵攻は「絵空事」だったと述懐している。けれども、今や事情は変わっているのだ。ドナルド・トランプ米国大統領は「私に国際法は不要だ」として国際法などは無視して軍事力を行使している稀代の「無法者」だ。高市早苗首相はそれを批判しないどころか「世界に平和と繁栄をもたらすことができるのはドナルドだけだ」などと言っているからである。自衛隊員は上官の命令で命を懸けることが任務とされている。「無法者」やそれを「平和の使者」であるかのように言いたてる「司令官」の命令で自衛隊員は「死地」に行かされるかもしれないのだ。
3月11日に行われた埼玉弁護士会主催の「憲法に自衛隊を書き込むことに反対するパレード」では、「自衛隊員と国民の命を危険にさらすな」とのコールも行われた。「9条があるから入った自衛隊」が自衛隊員の作かどうかは知らない。けれども、9条が自衛隊員の「守り神」であることは間違いないであろう。(2026年3月25日記)
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